位相のずれ

今回、木質繊維系断熱材を使うことになって、概念では理解していたことを、学術的用語として初めて知ることになりました。
それが今回のテーマ「位相のずれ」です。
これだけ書いただけでは、何のことやら判りませんよね。
ところが、これこそは断熱学の最後の秘境(現代日本住宅建築にとって)ではないでしょうか?
窓の断熱については、アルミフレームの熱伝導率の問題点を徹底的に書きました。
ガラスは、究極に近い<トリプルガラスWLow-e>。
基礎断熱から屋根の遮熱シートまで、温暖な知多半島では、無暖房住宅の手前まで来た、と言えるほどです。
しかし、夏の暑さは、やはり冷房なくては、到底暮らせないのでは?と思える日があります。(もちろん、地域差はあり、風通しが良い場所は冷房いらないかも)
街中の通行が多い地域や、悪臭で窓を開けられない場所(半田市にはこの様な地域も存在する)梅雨で窓を開けられない、家の方位が真南でなく風通しが悪い、などなど。
家の中に熱気がこもる理由は多々あります。
在来工法で建てられた多くの日本の家屋は、壁の中に土が込められており、断熱の役割を持っていました。
しかし、その厚みは7センチほどで、熱伝導率0.76の数値から判るように本当の意味での断熱性能とは程遠い能力しかありませんでした。
まして、水分を多く含む泥土を藁とともに練り上げ、竹格子に塗り込むのですから
水分が抜け、乾燥するとひび割れは勿論、柱の回りに隙間が出来て、風を通すのですから、断熱になるわけはありません。
 ですから、冬はかなり厳しい住環境と言えそうですが、夏になる乾燥した土壁が湿気を吸収したり、ひんやりして涼しくしてくれたものです。
但し、それは庇を深くして壁に直接日光を当てないことが前提となるのです。
数寄屋造りは正にその作法にかなった建築といえるでしょう。
でもそれは、広大な敷地と法外な建築費を必要とします。
そこで、庇は60センチ程度、総2階建て、壁は殆ど太陽に曝される家が当たり前になってしまうのです。
そうした家は、壁に求めるのが、吸湿性だけでなく、<高い断熱性能>になるのですが、では本当にそれだけでいいのでしょうか?
私は、部屋内側、すなわち壁の中にはセルロースファイバー(木質繊維系断熱材)を吹き込み、構造パネルの外側にEPSパネル(発泡スチレン)を貼り付け、モルタルと防水化粧材を塗ってきました。
セルロースファイバーが熱伝導率0.040、EPSパネルが0.034、それぞれの厚みはセルロースが100ミリ以上、EPSが30ミリと土壁の倍以上の厚みになり、
熱伝導率を掛け合わせると、何と40倍の断熱性能があることになります。
 このように簡単に計算できるのですが、ここに一つの疑問があります。
 世の中にはたくさんの断熱材があり、グラスウールやロックウールのような<安価>な物もあり、性能と施工性だけで行くと<水性発泡フェノール>通称「アイシネン」に軍配が上がります。
断熱性能だけで言えば、高密度フェノール板が現在最も高く、熱伝導0.02以下だ。
 ではなぜそれを使用しないのか?
 それには2つの理由がある。
 一つは、湿度の吸放湿が殆ど出来ないこと。
 二つ目が、いくら断熱性能が高くても質量がない!事だ。
 質量とは、重量のことであり、発泡スチレンも同じ問題を抱えているわけだが、それをセルロースファイバーが補っているのです。
 スチレンもフェノールも同じ水性発泡なので、ある程度の透湿性は見込めるが、吸放湿性は求めることが出来ない。
 まして、高密度フェノール板とのなると、透湿性すら望めないだろう。
 断熱と結露は背中合わせ、高気密で高断熱だからこそ、透湿性が必要であり、さらに吸放湿する物質がそのバックボーンに欠かすことの出来ないアイテムだ。
 本題に戻りましょう。質量がないとなぜ問題なのか?
 同じ性能の断熱材であっても厚みや質量が違うことによる、<位相のずれ>がある事です。
 例えば、火災実験を試みたとしましょう。
 方やグラスウールの100ミリが入った木軸の壁、片や土壁の土蔵で同じ断熱性能なら19倍の1m90センチあるとしよう。
 グラスウールの外側は不燃材のサイディングが張られているので、直接の火がグラスウールには掛からないとします。
 ほんの数分なら反対側の壁まで熱くなることはないでしょうが、30分も炎を当てられたら、内側の壁面が熱くなってしまうことでしょう。
 では、1m90センチある土蔵(現実にはあり得ないかもしれませんけど)はどうでしょうか?
 全く変化などあるはずないでしょう。
 じゃあ、土壁をその10分の1、19センチ(190ミリ)にしたらどうでしょう?
 1時間炎を浴びせて、サイディングは真っ赤に焼けても土壁の全体が熱くなるには十分ではないでしょう。
 反対に、グラスウールは、サイディングが真っ赤になった時点で、融点である650度を超え、溶け出してしまう可能性があります。
 サイディングは不燃材ですが、熱伝導率は高く、ほとんど抵抗なく熱を伝えるので直接炎を受ければあっという間に、内部に熱を伝えてしまいます。
 これは、<単に熱伝導率だけでは、本当の熱の移動を理解できない>現象です。
 熱は言うまでもなく<エネルギー>です。
 質量も<エネルギー>に置き換えることが出来ます。
 つまり、いくら断熱性能(熱抵抗値)が高くても、質量がなければ大きな熱量に合うとすんなり熱を通してしまうのです。
 太陽の熱を想像してください。
 屋根に鉄板を置けば卵焼きも出来るぐらいに熱くなります。
 瓦は手で触れないくらいの温度(70度以上)にもなり、真夏なら10時間以上陽の光に曝されるのです。
 屋根の下に幾らグラスウールを大量に敷き込んでも瓦に溜め込まれた熱量を防ぎきることは難しい。
 なぜなら、瓦のような高密度な物質に溜め込まれた熱量は、遠赤外線となって放射されるため、グラスウールのような光線を透過する物質の場合は、その断熱性能が発揮
されずに伝わってしまうのです。
 瓦が最も温まる時間帯は、日照の一番強い12時ではなく2時から4時の間ですから、その後の4時以降に放熱されることになります。
 真夏の夕方から夜にかけて家の内が熱くなるのはこのためです。
 壁も同じ原理で、土壁が温まりピークになるのが、東面は正午頃、南面で午後2時頃、西面は6時過ぎになるのですから、よるになってから部屋内が熱くなるのです。
 その後、外気温度が下がるに連れて、東面はほぼ外気と同じ温度に、南面は蓄熱するので(日照時間が長いため)外気温まで下がらず、西面も同じく外気温が高い時間帯に日射を受けるので、蓄熱に回ってしまいます。
 <西陽を入れると暑い>のはそのためです。(朝陽と西陽は同じ太陽光なのに)
 ここでお気付きでしょうが、日中温度のピークは12時ではなく、2時頃になるのです。これは、大気の質量、地表や日照を受けるすべての物質の質量が、太陽光のエネルギーを蓄熱し、放射を始めるための<位相のずれ>です。
 真空の宇宙ならこの現象は起きず、太陽光が最も入射角を90度に近づけた時が温度のピークになるのですが、地球上では、2時間ほどずれるのです。
 その現象を遅らせるのが、これからの断熱材の役割になるわけです。
 2時間のずれを12時間にしてやると、夜中の12時過ぎが熱の到達ピークとなり、
深夜で最も外気温が下がる時間帯になってくる(実際は2時~4時頃)。
 分厚い土蔵の一定の室温はこの条件を満たしているのです。(続く)
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by kzhome | 2013-06-20 11:54  

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